NTTデータが掲げる「3つのP」
NTTデータは、AIの活用とサステナビリティを結びつける提言として「Planet Positive」「People Positive」「Prosperity Positive」という「3つのP」を打ち出している(出典: NTTデータ「AI for Prosperity, the Planet and People」 https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2025/0415/ )。AIがもたらす恩恵の裏で、電力消費の増大や倫理的な課題といった負の側面も拡大している中、この提言は技術開発と社会的責任を同時に扱う枠組みとして位置づけられている。
Planet Positive は、AIの利用が引き起こす環境負荷、特に電力消費の増大に向き合う姿勢を示す。大規模言語モデル(LLM)の学習・推論には膨大な計算資源が必要で、これがICT関連の温室効果ガス(GHG)排出量を押し上げている。NTTデータは「NTT DATA Net-Zero Vision 2040」を掲げ、2040年までのGHG排出量ネットゼロを目指すとしている。具体的な取り組みとして、GHG可視化ツール「C-Turtle®」を用い、サプライヤーや協力会社を含めたサプライチェーン全体の排出量把握を進めている。
技術面では、軽量LLM「tsuzumi 2」の開発が象徴的な事例とされる。1GPUでの推論を可能にしつつ高性能な日本語処理能力を維持することで、環境負荷とコストの両方を抑える設計になっているという。
People PositiveとProsperity Positive
People Positive は、AIがすべての人にとって暮らしやすい世界の実現に資することを掲げる考え方である。AIの進化は雇用や社会構造に変化をもたらす可能性があり、差別や偏見の助長といった倫理的な問題は技術者だけでなく企業全体で取り組むべき課題になる。NTTデータは「NTT DATA Foresight Day」のような場で、AIが企業経営と社会にもたらすインパクトを議論する機会を設けている。
Prosperity Positive は、顧客と社会の持続的な成長への貢献を指す。短期的な利益追求だけでなく、長期的な視点で社会全体の「豊かさ」に貢献する姿勢を企業経営に組み込むという考え方であり、単なるベンダーと顧客の関係を超えた共創関係を志向するものとされる。
国際的な規制動向との関係
2026年2月に全面適用されたEU AI法の高リスクAI規定は、違反時に最大で全世界年商の7%に達する罰則を科す枠組みであり、AI導入を技術部門の判断事項から取締役会の決議事項へと押し上げる要因になっている。国内でも金融庁が2026年3月にAIガバナンス指針を改訂し、金融機関に対してAIモデルの説明可能性・公平性・継続的監視を義務化したとされ、J-SOX対応と同様の内部統制プロセスが求められている。米国でもNIST(国立標準技術研究所)がAIリスクマネジメントフレームワークを発表するなど、透明性・公平性・説明責任を重視する国際的な潮流が強まっている。
NTTデータが掲げる「3つのP」は、こうした規制が高リスクAIに求める要件と重なる部分が多い。規制対応を後追いするのではなく、自ら持続可能なAIのあり方を提案する立場を取ろうとしている点が、この提言の特徴と言える。
投資家・技術者・企業経営者への示唆
投資家にとっては、AI関連投資の評価軸に「持続可能性」を組み込む必要性が増している。AIを多用する企業の電力消費量やハードウェアのライフサイクルアセスメント、AIガバナンスの構築状況や透明性の運用実態は、これまでのESG評価に加えて確認すべき項目になりつつある。
技術者にとっては、モデルの量子化・プルーニング・蒸留といった軽量化技術や、公平性・透明性を担保する説明可能なAI(XAI)の開発が、今後求められるスキルセットの一部になる。「tsuzumi 2」のような軽量LLMの開発は、その具体的な方向性を示す事例である。
企業経営者にとっては、AI導入を単なるITプロジェクトではなく、従業員のリスキリング、AIガバナンスの構築、サプライチェーン全体での環境負荷把握を含む経営課題として扱う必要がある。特に、AIの意思決定プロセスの透明性確保と、問題発生時の対応プロトコルの整備は、企業のブランド価値と法的リスクの両方に直結する論点である。
まとめ
NTTデータの「AI持続可能性提言」は、AIの性能競争とは別の軸で企業を評価する枠組みを提示している。要点は次の3つに整理できる。
- 「Planet Positive」「People Positive」「Prosperity Positive」という3つの柱は、環境負荷・社会的影響・経済的価値をそれぞれ独立した評価軸として扱う構造になっている。
- 軽量LLM「tsuzumi 2」やGHG可視化ツール「C-Turtle®」は、理念だけでなく具体的な技術・ツールとして提言を裏付けている。
- EU AI法や金融庁のAIガバナンス指針など、国際的な規制強化の流れと方向性が重なっており、規制対応の観点からも参照価値のある提言になっている。