アリババとByteDance、動画AIの進化が示す未来のコンテンツ創造とは。
動画生成AIの領域は、ここ数年でとりわけ変化が速い分野の一つだ。かつては手作業で何時間もかかっていた編集作業が、AIによって数分、数秒で完了する時代に入りつつある。中でも中国のテクノロジー大手、アリババとByteDanceが「生成AIインフラサービス市場」を牽引している動きは見過ごせない。
アリババは「フルスタックAIサービスプロバイダー」を掲げ、2025年2月にエディー・ウーCEOが、今後3年間でAIおよびクラウドインフラに3,800億人民元(約530億ドル)超を投資すると発表した。これはアリババのこの10年間のAI・クラウド投資合計を上回る規模であり、中国民間企業による同分野への投資として過去最大とされる。
出典: Alibaba Group「Alibaba to Invest RMB380 billion in AI and Cloud Infrastructure Over Next Three Years」 https://home.alibabagroup.com/en-US/document-1830678592242057216
動画生成モデルの分野では、アリババクラウドが「Wan2.1シリーズ」をオープンソース化した。テキストから動画(T2V)、画像から動画(I2V)を生成するモデルで、14Bパラメータ版と1.3Bパラメータ版が公開されている。Apache 2.0ライセンスの下、Hugging FaceやModelScopeを通じて研究者・企業が利用できる。後継の「Wan2.5」では高忠実度オーディオ生成と動画時間の5秒から10秒への延長がネイティブにサポートされたと発表されている。
出典: Alibaba Group「Alibaba Cloud Open Sources its AI Models for Video Generation」 https://www.alibabagroup.com/en-US/document-1831486012178563072
大規模言語モデル(LLM)の「Qwenシリーズ」も強化が続く。テキスト・画像・オーディオ・動画を処理できるマルチモーダルモデル「Qwen3-Omni」(300億パラメータ)は、Apache 2.0ライセンスで公開され、複数のベンチマークでGPT-4oを上回ったと報じられている。最上位モデル「Qwen3-Max」は36兆トークンで学習され、パラメータ数は1兆を超えるとされる。アリババはこのほか、AIモデルスタートアップのMoonshotやMiniMax、ロボティクススタートアップのLimx Dynamicsへの出資に加え、2025年9月にはAI動画生成企業Aishi Technology(艾栖科技)のシリーズB資金調達ラウンド(6,000万ドル超)を主導した。
出典: DeepLearning.AI「Alibaba Expands Qwen3 Family With 1 Trillion-Parameter Max」 https://www.deeplearning.ai/the-batch/alibaba-expands-qwen3-family-with-1-trillion-parameter-max-open-weights-qwen3-vl-and-qwen3-omni-voice-model / Futu News「AiShi Technology Completes $60 Million Series B Financing Led by Alibaba」 https://news.futunn.com/en/flash/19356798/aishi-technology-completes-60-million-series-b-financing-led-by
一方、TikTokの親会社であるByteDanceも、動画AI分野で急速な投資を進めている。2025年のAIインフラ投資は約120億ドル(872億元)規模と報じられ、うち55億ドルは国内AIチップ調達に、68億ドルは海外でのモデル学習能力強化に振り向けられる計画とされる。国内の半導体調達のうち約6割はHuaweiやCambriconなど中国製チップに割り当てられ、残りが米国の輸出規制に対応したNVIDIAチップに充てられると報じられている。
出典: Yahoo Finance「ByteDance plans to invest $12bn in AI infrastructure」 https://finance.yahoo.com/news/bytedance-plans-invest-12bn-ai-095746949.html
ByteDanceのAI動画ジェネレーターとしては「Seedance」と画像モデル「Seedream」が公開されている。中でも「OmniHuman-1」は、1枚の写真と音声クリップから、話す・歌う・ジェスチャーするといった全身の動きを含むリアルな動画を生成できるモデルで、1万8,700時間分の人物動画データで学習されたとされる。デジタルヒューマンやバーチャルインフルエンサーの制作コストを大きく引き下げる可能性を持つ技術だ。
出典: BytePlus「OmniHuman-1」 https://www.byteplus.com/en/blog/omnihuman-1
ByteDanceのAI研究体制は、LLM・音声・ビジョン・世界モデル・インフラなどの研究開発を担う「Seedチーム」への統合が進められており、元Google DeepMind副社長を含むAI人材の採用も積極化しているとされる。米国のチップ輸出規制を踏まえ、マレーシアでのデータセンター利用を拡大しているという報道もあり、AI開発における地政学的な側面が色濃く出ている領域と言える。
投資家の視点で見れば、AIインフラ、特にAIチップへの投資競争は今後も激化するとみられる。NVIDIAの優位性は依然として大きいが、HuaweiやCambriconといった中国勢の追い上げも軽視できない。フルスタックでAIサービスを提供しようとするアリババと、動画生成という特定領域にインフラを集中させるByteDanceと、どちらのアプローチが市場で優位に立つかは、今後の技術動向と規制環境の両方に左右されるだろう。
技術者にとって、マルチモーダルAIの進化は避けて通れないテーマだ。テキスト・画像・音声・動画を横断的に扱えるモデルの登場は、アプリケーション開発の可能性を大きく広げる。一方で、OmniHumanのようなリアルな人物動画生成は、ディープフェイクをはじめとする悪用リスクを伴う。技術の進歩と社会的な責任のバランスをどう取るかは、開発者・プラットフォーム双方が向き合うべき課題だ。
動画AIの進化がもたらすのは、コンテンツ制作コストの劇的な低下だけではない。かつて専門の制作会社に依頼し、多額の費用と時間をかけて作っていたプロモーション動画が、アイデアといくつかのキーワードから数分で複数バリエーション生成できるようになる。Eコマースの商品紹介動画も、商品写真と説明文から自動生成し、ターゲット顧客に合わせてBGMやナレーションを最適化する運用が現実的になりつつある。
一方で、この技術の裏側には見過ごせない課題も横たわる。本物と見分けがつかない偽の動画が容易に作れるようになることで、社会的な混乱や誤情報拡散のリスクは高まる。AI生成コンテンツを識別するウォーターマーク技術や、コンテンツ認証の仕組み、そして倫理的ガイドラインや法整備の議論を、技術の進化と並行して進める必要がある。著作権の帰属についても、学習データに含まれるコンテンツの権利者への対価をどう設計するか、明確な答えはまだ出ていない。クリエイターが安心してAIツールを使えるライセンス体系や報酬モデルの議論は、今後さらに活発化するとみられる。
コンテンツクリエイターにとって、AIは敵視すべき対象というより、アイデアを形にするスピードを加速させる共創パートナーとして捉える方が実務的だろう。AIに任せる作業と、人間が担うべき創造的な部分を明確に区別し、いかにAIを使いこなして自身の表現を広げるかが、今後の実務での分かれ目になる。
アリババとByteDanceが示す動画AIの動きは、単なる技術革新にとどまらず、コンテンツ制作・マーケティング・教育など幅広い産業の構造そのものに影響を及ぼしつつある。この変化にどう向き合うかは、AIリテラシーをどれだけ実務に落とし込めるかにかかっている。