リコージャパンは2025年9月19日、生成AIサービス「RICOH デジタルバディ」の自治体向けラインアップ「RICOH デジタルバディ for 自治体」の提供を開始したと発表した。「Standard」「Advanced」の2プランを用意し、自治体特有の閉域網である総合行政ネットワーク(LGWAN)環境への対応と、入出力データをAIの学習に利用しない設計を特徴に掲げている。
出典: リコー「生成AIサービス『RICOH デジタルバディ』の自治体版を提供開始」https://jp.ricoh.com/release/2025/0919_1
ユースケースとしては、職員からの各種手続きに関する問い合わせへの自動回答、計画書・調査レポートの要約、必要情報のピックアップ代行などが挙げられている。料金体系は質問回数やファイル登録処理回数に応じた従量課金方式で、上限設定やトライアルプランも用意されている。
リコーは自治体向けサービスの展開に先立ち、2024年8月に日英中3言語対応・700億パラメータの独自大規模言語モデル(LLM)を開発したと発表しており、オンプレミス・クラウドいずれの環境でも導入できる設計になっている。国内企業向けにプライベートLLM構築支援を強化する狙いがあるという。
出典: リコー「日英中3言語に対応した700億パラメータの大規模言語モデル(LLM)を開発」https://jp.ricoh.com/release/2024/0821_1
リコーグループは2025年度(2026年3月期)にデジタルサービス事業の売上構成比を60%以上に引き上げる目標を掲げており、複合機中心のハードウェアビジネスからの転換を進めている。
出典: 日本経済新聞「リコー、デジタル売上高比率6割目指す 26年3月期」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0369M0T00C22A3000000/
ALLFORCES編集部の見立て
自治体向けAI市場は、LGWAN対応という技術的な参入障壁と、調達プロセスの複雑さゆえに、大手クラウドベンダーが単独で攻略しにくい領域だ。リコーが長年の複合機・ITインフラ提供を通じて築いてきた自治体との取引関係と、LGWAN環境の理解は、この市場における実務上の強みになる。一方で、生成AIそのものの技術的な優位性という点では、自社開発LLMを含め、大手クラウドベンダーの汎用モデルとの性能差がどの程度あるのかは、外部からの検証情報が乏しく、記事執筆時点では確認できていない。
「入力データをAIの学習に利用しない」という設計方針は、公共機関がAI導入を検討する際に最も重視するセキュリティ要件の一つであり、これを明確に打ち出したこと自体が、リコーが自治体市場の懸念を的確に把握していることを示している。
投資家・技術者への示唆
投資家にとっては、リコーの戦略転換は従来のハードウェア中心の収益構造から、継続的なサービス収入モデルへのシフトを意味する。公共セクターは調達サイクルが長く価格競争も激しい一方、一度導入されれば長期契約につながりやすいという特性があり、収益の安定性という観点で評価する余地がある。ただし、収益化までの具体的な進捗については、今後の決算開示を継続して確認する必要がある。
技術者にとっては、LGWANのような閉域網環境でセキュアに生成AIを運用するためのアーキテクチャ設計や、特定ドメインに特化したプライベートLLMのチューニング手法が、実務上参考になる事例だ。汎用LLMでは対応が難しい、行政特有の専門用語や条例知識に特化したモデル調整は、今後他業界でも応用されうる設計パターンといえる。