Baiduの新型AIチップ「Kunlun 5」というニュースが一部で伝えられている。しかし編集部がBaidu本体および主要テックメディアの報道を確認した範囲では、この名称と仕様を裏付ける一次情報は見つからなかった。この個体名についての一次情報は確認できなかった、というのが正直なところだ。ただし、Baiduが2025年11月にAIチップの新ロードマップを公式に発表している事実は、複数の一次報道で確認できる。以下では、確認できた事実に基づいて、Baiduの半導体戦略とその意味を検証する。
Baiduが実際に発表したもの:Kunlun M100とM300
TrendForce「Baidu Rolls Out Kunlun Roadmap, M100 & M300 AI Chips Arrive 2026-2027」(2025年11月13日)https://www.trendforce.com/news/2025/11/13/news-baidu-rolls-out-kunlun-roadmap-m100-m300-ai-chips-arrive-2026-2027/ によれば、Baiduの半導体子会社Kunlun Coreは、大規模推論向けの「Kunlun M100」を2026年前半に、超大規模なマルチモーダルモデルの学習・推論向けの「Kunlun M300」を2027年前半に投入するロードマップを公表した。同時に、第3世代チップ「P800」はすでに量産・出荷段階に入っていることも明らかにされている。
Caixin Global「Baidu Unveils Ambitious AI Chip Roadmap, Targeting 1 Million-Card Cluster by 2030」(2025年11月14日)https://www.caixinglobal.com/2025-11-14/baidu-unveils-ambitious-ai-chip-roadmap-targeting-1-million-card-cluster-by-2030-102382580.html によると、Baiduは2030年までに100万カード規模のKunlunクラスタ構築を目標に掲げている。単発のチップ発表ではなく、複数世代にわたる長期の自社半導体戦略であることがうかがえる。
TrendForceの報道では、M100は特にNVIDIAの中国輸出向け製品「H20」の国産代替として位置づけられているとされる。米国の対中輸出規制が続くなか、Baiduのような大手テック企業が自社製AIチップで国内需要を賄おうとする動きは、中国の半導体自給戦略という文脈で一貫している。
「単一の覇権」から「エコシステム間競争」へ
Baiduはハードウェアだけでなく、AIフレームワーク「PaddlePaddle」も自社開発しており、NVIDIAのCUDAに対抗する垂直統合型のAIスタックを構築しようとしている。TensorFlowやPyTorchと比べればユーザーベースはまだ小さいが、中国国内では独自のエコシステムとしての存在感を強めている。
こうした動きはBaiduに限った話ではない。GoogleはTPU、AWSはInferentia/Trainium、HuaweiはAscendと、各社が自社ワークロードに最適化したAIチップの開発を進めている。NVIDIAの優位が続く一方で、特定の地域・ワークロードに最適化した独自スタックが並立する「エコシステム間競争」への移行は、業界構造の変化として複数の報道機関が指摘している一般的な傾向だ。
投資家が見るべき点
投資家にとって重要なのは、単発の性能競争ではなく、Baiduが複数世代のチップ投入と大規模クラスタ構築を計画的に進めている点だ。M100の量産開始時期、P800の出荷実績、そして米国の対中輸出規制の動向は、いずれも今後の投資判断に直結する材料になる。半導体製造装置メーカーの受注動向や、中国国内ファウンドリの歩留まりも、あわせて注視すべき変数だ。
技術者が見るべき点
技術者にとっては、特定のハードウェアやソフトウェアエコシステムに依存しない柔軟性が引き続き重要になる。PaddlePaddleエコシステムの重みは中国市場では今後さらに高まる可能性がある一方、NVIDIAのCUDAエコシステムも当面揺るがない。OpenXLAやTritonのような、ハードウェアを横断するコンパイラ・フレームワークを通じてポータビリティを確保する動きも並行して進んでいる。
まとめ
一部で流通した「Kunlun 5」という名称そのものは、編集部の調査では一次情報源に見当たらなかった。しかし、Baiduが実際に公表したKunlun M100/M300のロードマップと100万カードクラスタ構想は、中国のAI半導体自給戦略における実質的な一歩であり、投資家・技術者双方が注視するに値する動きだ。M100の量産開始時期と、実際に公開される性能データが、この戦略の実効性を判断する次の材料になるだろう。