SAPがAI開発者支援を強化する真意とは?その戦略が示す未来のビジネス像
長年ERP市場の中心にいたSAPが、開発者向けのAI支援をここまで強化するのは意外に映るかもしれない。しかし2025年11月のSAP TechEdでの発表を見ると、単にAI機能を既存製品に足すのではなく、開発者がAIを使いこなして新しい価値を生み出す環境そのものを整えようとする狙いが見える(出典: SAP「New Agentic Capabilities on SAP BTP Supercharge Developers for What’s Next」2025年11月、https://news.sap.com/2025/11/new-agentic-capabilities-sap-btp-supercharge-developers/ )。
SAP Build CodeとJoule Studioの強化
今回の発表で目を引くのは「SAP Build Code」だ。既存のローコードソリューション「SAP Build」を、プロフェッショナル開発者向けのAI活用生産性ツールへと位置づけ直している。生成AIアシスタント「Joule」がコード生成やデータモデル作成、アプリケーションデータのテストを支援し、Java・JavaScript開発への最適化も進んでいるという。「Joule Studio」ではSAP純正エージェントのカスタマイズや、業務データに基づく新規エージェント構築、AIアシスト設計、システムトリガー型エージェント、エージェント間連携(A2Aプロトコル)対応などの機能が追加された。
さらに、Cursor・Claude Code・Cline・WindsurfといったエージェントAI開発ツールから、Model Context Protocol(MCP)サーバー経由でSAPのフレームワークを利用できるようになり、Visual Studio Codeの拡張機能サポートも進んだ。これまで閉じた印象のあったSAPの開発環境が、外部のエコシステムと接続していく方向性を示している。
AI基盤とデータ活用
SAP Business Technology Platform(BTP)上の「AI Foundation」は、大規模言語モデルへのアクセスやベクトルデータベース機能、AIのランタイム・ライフサイクル管理をまとめて提供する。SAP HANA Cloudにはベクトルデータベース機能が追加費用なしで加わり、非構造化データを大規模言語モデルの長期記憶やコンテキストとして活用できるようにするという。SAP Business Data Cloudの拡張やSAP Snowflakeソリューション連携も、データとAI基盤の接続を広げる動きの一部だ。
人材育成への投資
SAPは2030年までに世界で1,200万人がAI対応スキルを習得できるよう支援するという目標を掲げており、ABAP Cloud開発モデルを使うバックエンド開発者向けのロールベース認定と無料学習リソースも用意している。ツールの提供にとどまらず、既存のSAP開発者コミュニティをAI時代に移行させる狙いがあるとみられる。
投資家として見るべき点
Jouleのようなコパイロット機能の普及率や、BTP上でのAI活用事例の増加、既存顧客のアップセルへの寄与度は、この戦略が実際に収益へつながっているかを測る指標になる。MicrosoftのCopilotやSalesforceのEinsteinなど競合も同様の路線を進めており、SAPの差別化点は財務・サプライチェーン・人事といった基幹業務データへの深い統合にある。
技術者として見るべき点
これからのSAP開発者には、コードを書く能力に加えて、AIモデルの選定やプロンプト設計、AIが生成したコードのレビュー、業務コンテキストの理解を統合する能力が求められるようになる。MCPサーバーやAgent-to-Agentプロトコルへの対応は、エージェント型開発が実務レベルで動き出しつつあることを示しており、既存のABAP開発者にとっても新しい認定制度を通じたキャッチアップの道筋が用意されている。
まとめ
- SAPは2025年11月のTechEdで、SAP Build Code・Joule Studio・MCPサーバー対応など開発者向けAI機能群を発表し、単なる機能追加でなくエコシステムのオープン化を進めている。
- SAP HANA CloudのベクトルDB追加やAI Foundationは、既存の基幹データをAIモデルと接続するための基盤整備にあたる。
- 2030年までに1,200万人のAI対応スキル育成という目標は、ツール提供と人材育成を両輪で進める姿勢の表れ。
- 実際の効果はJoule普及率やアップセルへの貢献度といった指標で今後検証していく必要がある。