イタリア議会は2025年9月17日、AIを包括的に規律する国内法「法律132/2025号」を承認した。EU加盟国が国内法としてAIの包括規制を成立させたのはイタリアが初めてで、EU AI Actを補完・具体化する形の国内実装として位置づけられる。
出典: Squire Patton Boggs「Italian Law no. 132/2025 – The First Domestic Law in the European Union on the Use of Artificial Intelligence」https://www.squirepattonboggs.com/en/insights/publications/2025/10/italian-law-no-132-2025-the-first-domestic-law-in-the-european-union-on-the-use-of-artificial-intelligence
法律の核心は「人間中心」のAI利用の徹底にある。ディープフェイクのような AI生成・操作コンテンツを不当な損害を伴う形で違法に拡散した場合、1年から5年の懲役刑が科される。詐欺、個人情報窃盗、市場操作、マネーロンダリングといった既存の違法行為にAIが悪用された場合は、加重要件として刑罰が最大3分の1加算される。医療、労働、行政、教育、司法、スポーツといった分野でのAI利用が対象となり、AIによる意思決定には人間による監督と追跡可能性が求められる。
同時にイタリア政府は、AI・サイバーセキュリティ・通信分野の企業を支援するため、国営投資会社CDP傘下のベンチャーキャピタルファンドから最大10億ユーロを投じる方針を示した。この10億ユーロの枠自体はCDPベンチャーキャピタルの2024-2028年産業計画で既に組まれていたものだが、AI法の成立に合わせて重点配分先として位置づけ直された。
出典: Digital Watch Observatory「Italy’s CDP to invest €1 billion in AI and cybersecurity」https://dig.watch/updates/italys-cdp-to-invest-e1-billion-in-ai-and-cybersecurity
ALLFORCES編集部の見立て
刑事罰という強い手段を伴う規制の是非については、業界内でも評価が分かれる。多国籍企業にとっては国ごとに異なる規制への対応が複雑化し、AI開発のスピードを鈍らせる要因になりうる一方、批判的な立場からは10億ユーロという支援枠は米中の投資規模と比べて小さいという指摘も出ている。ALLFORCES編集部は、この規制強化を「イノベーションの阻害」と単純に断じるのではなく、AIの社会実装が進むにつれて既存の刑事法・行政法の枠組みで捉え直される過程の一段階として捉えるべきだと考える。自動車やインターネットが普及初期の無規制状態から徐々にルールを整備してきた経緯と、構造的に近い動きといえる。
企業にとって特に重い課題となるのは、「AIによる意思決定には人間の監督と追跡可能性が求められる」という要件だ。これは、AIの判断根拠を人間が理解できる形で説明する能力(いわゆるXAI: Explainable AI)を、法的な要請として組み込む必要があることを意味する。
投資家・実務者への示唆
投資家にとっては、AI関連企業への投資判断において、技術力だけでなくAI倫理・ガバナンス体制、各国規制への対応能力を評価軸に加える必要性が一段と高まっている。ISO/IEC 42001のようなAIマネジメントシステムの国際規格への準拠は、こうした評価における一つの目安になりうる。
実務者にとっては、AI利用に関する倫理ガイドラインの策定、リスク評価と管理体制の構築、AIの意思決定プロセスの説明可能性の確保、サプライヤーが利用する外部AIサービスの規制遵守状況の確認といった、具体的なガバナンス整備が実務課題として浮上する。特に医療・金融・行政のようにイタリア法が直接対象とする分野で事業を行う企業は、自社がイタリア国内でどのような義務を負うのか、法務部門による個別の確認が不可欠になる。
イタリアの一手は、EU AI Actの先行実装事例として他のEU加盟国の国内法整備にも影響を与えるとみられる。AIの「悪用」に対する社会の目が厳しくなる流れは今後も続くと見られ、規制対応力そのものが企業の競争力を左右する時代に入りつつある。