サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が、国家主導で「ソブリンAI」の構築を競う動きが2025年に入り加速している。石油依存からの脱却を掲げる両国にとって、AIインフラと人材への投資は「未来の石油」と位置づけられている。
サウジアラビアの公共投資基金(PIF)は、AI専業子会社「HUMAIN」を2024年に設立した。HUMAINは総額1000億ドル規模のAI事業体と位置づけられており、NVIDIAとの戦略提携により、最大500メガワット級のAIファクトリーをサウジ国内に構築する計画を進めている。第一弾としてNVIDIA製GB300 Grace Blackwellチップ1万8000基が出荷されたことが両社から発表された。
出典: NVIDIA Newsroom「HUMAIN and NVIDIA Announce Strategic Partnership to Build AI Factories of the Future in Saudi Arabia」https://nvidianews.nvidia.com/news/humain-and-nvidia-announce-strategic-partnership-to-build-ai-factories-of-the-future-in-saudi-arabia/Vision 2030 AI「HUMAIN — Saudi Arabia’s $100 Billion Artificial Intelligence Company」https://vision2030.ai/analysis/humain/
一方UAEは、2017年に世界初のAI担当大臣を任命して以来、国家戦略としてAI開発に取り組んできた。現地企業G42とその子会社Core42は、OpenAI、Oracle、NVIDIA、ソフトバンクグループ、Ciscoと共同で「Stargate UAE」を立ち上げ、アブダビに1ギガワット規模のAI計算基盤を構築するフェーズ1を進めている。MicrosoftはG42に対し2024年に15億ドルを投資したことを公表しており、両社の関係はソブリン・クラウド基盤の共同構築にまで及んでいる。
出典: G42「Global Tech Alliance Launches Stargate UAE」https://www.g42.ai/resources/news/global-tech-alliance-launches-stargate-uae
両国に共通するのは、AIインフラに不可欠な電力と冷却設備において、豊富なエネルギー資源と比較的低い電力コストという地理的優位性を明確に意識している点だ。電力価格が低く安定供給できる地域に計算資源への投資が集中するという構図は、AI開発における「立地条件」を根本から塗り替えつつある。
ALLFORCES編集部の見立て
中東発のAI投資が特異なのは、単に技術を輸入するのではなく、自国企業(HUMAIN、G42)を主体に据え、独自のAIモデル開発にも乗り出している点である。これは技術導入国から技術の生産者への転換を志向する動きであり、AI開発の主導権が企業レベルから国家レベルへとシフトしていることを象徴している。データを自国で管理・活用する「データ主権」の確保が、この動きの根底にある考え方だ。
ただし、これらの投資計画の多くは複数年にわたる段階的な展開であり、記事執筆時点で稼働しているのは初期フェーズにとどまる。将来の稼働規模や経済効果の予測値については、実際の建設進捗と合わせて継続的に検証する必要がある。
投資家・技術者への示唆
投資家にとっては、シリコンバレー中心の視点だけでなく、国家戦略としてAIインフラに巨額投資を行う中東の企業やプロジェクトを、電力コストの優位性という切り口で評価する視点が有効になる。技術者にとっては、アラビア語やイスラム圏の商習慣に即したAI開発、あるいはNVIDIAやOracleといった大手ベンダーとの共同プロジェクトへの参加が、新たなキャリアの選択肢として現実味を帯びてきている。
日本企業にとっても、この動きは無関係ではない。データセンターの冷却技術や省エネ技術、精密機器といった日本の強みは、中東のAIインフラ構築において応用の余地がある分野だ。ソブリンAIをめぐる競争が多極化するなかで、どの国・企業と連携するかという選択自体が、今後の技術戦略における重要な論点になっていく。